レコードライブラリーからその時の気分で選んでいるので、選ぶ順番はランキングではない。ペーター•ダムのレコードに優劣をつけるのは難しい。あたかも、頂上が平らな山頂にたくさんペーター•ダムの名演がお花畑のように咲いている様子を想像してほしい。ご主人様のライブラリーからどの花を摘み取るかはそのときの気分で決めよう。
今回は「ダム味(み)」が隠し味としてしっかりと伝わってくる名録音を紹介する。モーツァルトの名曲「フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 KV299」だ。
演奏者と録音について
フルート:Johannes Walter
ハープ:Jutta Zoff
オーケストラ:Staatskapelle Dresden
指揮:Otmar Suitner
録音技師:Horst Kunze
録音場所:Studio Lukaskirche (ルカ教会)
録音年:1975年3月 (ペーター•ダム 37歳)
指揮は日本でもよく知られた名指揮者、オトマール・スイトナー。「どこにもペーター•ダムの名前はないではないか」、と言われそうだが、ソロや室内楽ではなく、あえてオーケストラで演奏するペーター•ダムを紹介したいと思う。
フルートのJohannes Walterは1937年、ペーター•ダムと同じ年に生まれている。
この曲はソロのフルートとハープ以外は弦楽器とホルン、オーボエ各2本だけの編成。録音技師、録音場所については後日語りたいと思うが、まずは楽曲と演奏について紹介する。
楽曲について
もともとは趣味でフルートを吹く貴族の父親と、ハープを演奏する娘のために作曲された。当時の楽器の性能上の制限と、あまりお上手ではなかったらしい二人のために演奏しやすいように作曲したそうだが、そのシンプルさが逆に曲の美しさを引き立たせている。
ご主人様は学生時代のバイトの経験からハープがどれだけ重たい楽器かは身に染みてわかっていても、ハープがどれだけ難しい楽器なのかはわからないそうだ。ただ、聴いていると決して簡単な曲ではなさそうなので、このお嬢さんはなかなか上手なハープ弾きだったのかもしれない。
いずれにしても、このアマチュア演奏家の父娘のおかげで名曲が後世に残ったことは間違いない。
映画『アマデウス』でも2楽章が登場しましたね。
サリエリが楽譜をめくりながら自分の限界を思い知らされる場面ですね。
「ペーター•ダム的」聴きどころ
第一楽章
ハ長調の明るい分散和音で始まる、朝にぴったりの曲。
前奏からバイオリンが「ド、シ、ラ、ソーファミ」と下降してくるフレーズの裏の伸ばしで、ペーター•ダムはすでにビブラートをかけて歌っている。これがペーター•ダムだ。普通はここでビブラートをかけず、ただまっすぐ伸ばすだけだろう。ここにペーター•ダムが凝縮されているように感じる。
音楽に対する愛情、オーケストラで演奏することの素晴らしさ、そして生きることの喜び。全てをホルンの音で表現している。オーケストラもそれに呼応して否応なしに高揚する。ホルンの音がオーケストラの気持ちを大きく左右することがよくわかる名演。
第二楽章
この楽章は管楽器はお休み。弦楽器のみが伴奏するのでペーター•ダムの出番はない。ペーター•ダムなしでもWalterの美しいフルートとZoffのきらびやかなハープによる名演だ。
第三楽章
管楽器が再び加わり、フルートとハープのソロと掛け合いするようにホルンとオーボエが歌う。あたかも「フルートとハープとホルンとオーボエのための協奏曲」を聴いているようだ。ダムの演奏に聴き惚れて「あ、そういえばフルートもいた」と我に返ることもしばしばだ。
多くの人に愛されてきたモーツァルトの名作を、ペーター•ダムの音色に乗せて是非聴いていただきたい。
伴奏でもテンション高いです!
「ダム味(み)」が隠し味としてしっかり効いてますね!