「ペーター・ダム」とは

ペーター・ダムは世界最高のオーケストラの一つ、「ドレスデン国立歌劇場管弦楽団で首席ホルン奏者をつとめた音楽家です。「ホルン」にはなじみがない、という方も多いかもしれませんが、ゆっくりご説明しますのでご安心ください。

「ホルン」とはどんな楽器か 

オーケストラは「弦楽器」、「管楽器」、「打楽器」の3種類の楽器群が集まったチームです。「管楽器」はさらに「木管楽器」と「金管楽器」に分けられます。ホルンはトランペットやトロンボーンなどと同じ「金管楽器」の仲間です。

楽器の形と音色

ホルンの画像

ご覧になったことはありますか?丸くてごちゃごちゃしていますが、この管を伸ばすと5メートル弱もあって、持ち運ぶのは大変です。狩りや郵便配達の人が馬上で使えるように管を丸めたのが今の形の始まりです。欧州では郵便のマークに今でも使われています。とても柔らかい音色が特徴ですが、音が外れやすく難しい楽器とされています。

ペーター・ダムはなぜ凄いのか?

オーケストラの中でのホルンは、ソロを吹くこともありますが、どちらかといえば裏方を演じることの多い楽器です。和音を吹いたり、リズムを刻んだり。近年は世界的に楽器や奏法が共通化していて、音を聴いても誰の音かわからないようになりました。敢えて個性を消すことがよしとされているのかもしれません。

ペーター・ダムの時代は違いました。国によってホルンの音色が異なり、奏者の個性が際立っていました。その中でも極端に「キャラが立っていた」のがペーター・ダムです。ファンはホルンの音を聴くためではなく、「ダムの音」を聴くために演奏会に足を運び、レコードを飼いました。 

ペーター・ダムの凄さは音色だけではありません。彼は全身で歌うのです。ソロの場面では、まるでテノール歌手のようにたっぷりとビブラートをかけ、情感たっぷりに歌います。現代の奏者はストレートにまっすぐな音で演奏する奏者がほとんどですが、ここまで作品に入り込み、歌おうとしたホルン奏者は彼以外にはいないでしょう。  

現代人は他人と比較することでしか安心を得られず、便利なAIの力に圧倒されつつあります。冷戦時代の東ドイツという、いわば「壁に閉じ込められた世界」の中で、ひたすらに自分を表現しようとしたペーター・ダムの音楽が教えてくれるものは少なくありません。

Kuuta
Kuuta

こんなホルン奏者がいたんだね!

ペーター・ダム年表  

ペーター・ダムの経歴を振り返ってみましょう。(年齢は誕生日後の年齢を表記します。)

ドイツは1990年に再統一されるまで、東西ドイツに分断されていました。ペーター・ダムは「東ドイツのホルン奏者」として知られています。しかし、年表を振り返ると、分断前のドイツに生まれ、ナチス政権下、第二次世界大戦中に幼少期を過ごし、戦後は東ドイツで活躍し、その途中でドイツが再び統一する、という激動の時代を生きた世代です。

今年(2025年)88歳になられましたが、今もドレスデンでお元気に暮らしていらっしゃいます。  

年齢出来事・キャリア
1937年0歳ドイツ、マイニンゲン(Meiningen)で生まれる
1948年頃11歳バイオリンの教育を受ける
1951年14歳フランツ・ノイバー(Franz Nauber)にホルンを学び始める
1951年〜1957年14〜20歳ワイマールの音楽大学でカール・ビーリッヒ(Karl Biehlig)に師事
1953年16歳初めてオーケストラで演奏(「ヘンゼルとグレーテル」)
1955年18歳ソリストとしてモーツァルトの「ホルン協奏曲 KV447(第4番)」を演奏しデビュー
1957年20歳The Orchestra of Gera の首席ホルン奏者としてのキャリアを開始。
1959年22歳ライプチッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の首席奏者に就任 
1969年32歳ドレスデン国立歌劇場管弦楽団の首席奏者に就任
2002年64歳同団を退団(約33年間在籍)
2002年〜2007年64歳〜70歳ドレスデン Carl Maria von Weber音楽大学で教鞭をとる
2007年70歳「人々が惜しんでくれるうちに引退しなさい」というモットーに従い、惜しまれながら引退

Kuuta
Kuuta

東ドイツの代表ではなくて、全ドイツを代表する音楽家なんだ!

関連リンク

もっと詳しくペーター・ダムのことを知りたくなった方のために二つのサイトをご紹介します。

1.ペーター・ダム|公式サイト 

ペーター・ダム氏ご本人の公式サイトです。ご本人による詳しい経歴や、Discography, 出版物などが紹介されています。 

2. ドレスデン国立歌劇場管弦楽団|公式サイト

ペーター・ダム氏が活躍したドレスデン国立歌劇場管弦楽団の公式サイトです。ダム氏のスピリットを受け継いだ、世界最高のオーケストラです。コンサート情報などが掲載されています。