ご主人様は、なかなか終わらない夏にバテているのか、最近元気がない。「全身毛皮の柴犬からみたらあまーい!」、と思いつつ、僕も今年の夏は冷房と扇風機なしにはすごせなかった。
ご主人様に早く元気になってほしいので、今日は「元気と癒し」に満ちた曲をとりあげる。このレコードをそっとご主人様のレコードプレイヤーの上に置いておこう。
演奏者と録音について
指揮者: Hartmut Haenchen
オーケストラ: Kammerorchester C.Ph.E.Bach der Deutschen Staatsoper Berlin
録音技師:Heinrich Eras
録音日時:1981年(ペーター•ダム 44歳) 録音場所:ベルリン Christuskirche
所属するドレスデンシュターツカペレではないメンバーとの共演で、録音場所もベルリンという珍しい録音。指揮者はハルトムート・ヘンヒェン。皆さんはご存知だろうか。僕はあまり馴染みがないので調べてみると、ドレスデン出身の指揮者でカール・フィリップ・エマヌエルバッハの音楽の専門家、という極めてマニアックな指揮者らしい。この録音もC.Ph.エマヌエルバッハ室内管弦楽団が伴奏している。
この指揮者のCDはけっこう多いが、筆頭にこのペーター•ダムのアルバムが挙げられてる。おそらく、最初のレコード録音がこのペーター•ダムとの共演だったようだ。
「ペーター•ダム的」聴きどころ
タイトルの「Vorklassik」 というのは、このブログを応援してくださるご主人様のF先輩によれば、「前古典派」の意味で、「バロックから古典派へ移り変わる一時期の時代区分」なのだそうだ。このLPレコードにはテレマン、フォルスターのホルン用に作曲された曲が収録されている。
ペーター•ダムはあまり知られていない作品を発掘し、自らの演奏で命を吹き込み、精力的に録音している。そう、彼はバッハを再発見したメンデルスゾーンのような存在なのだ。今回紹介するハイドンのホルン協奏曲は有名だが、演奏が難しい。ご主人様は高い音を吹くのが苦手なので、この曲は早々に断念したそうだ。
第一楽章
元気にあふれた弦楽器の前奏に続いて、ペーター•ダムがニ長調の分散和音を一つづつ駆け上がるような主題を吹く。他の奏者は、ただ陽気に吹き始めること多いが、ペーター•ダムは意表をつくかのようにメゾフォルテで始める。力強さではなく、いかにエレガントに歌うかを追求しているようだ。まるで優雅なダンスを踊るかのようなリズム感も素晴らしい。
第二楽章
若いころはハイドンの音楽をあまり聴かなかったが、老犬になってくるとハイドンの良さがだんだんとわかるようになるのだろうか。この「ホルン協奏曲第一番」の第二楽章は、聴く度に味がでてくるようだ。
一体いつまで続くの?と思うくらい長い弦楽器の前奏が終わると、ペーター•ダムが満を侍して美しいロングトーンから始まる旋律を吹き始める。このペーター•ダムの出だしは、どうしても聴いて欲しいと思う。ただ伸ばしているだけの音を、緩やかなビブラートを少しずつかけて歌っている。このロングトーンを聴いて癒されない人も柴犬もいないだろう。大好きな一音だ。
第三楽章
二楽章とは打って変わって快活な第三楽章。一楽章で元気づけられ、二楽章で癒され、そしてこの三楽章ですっかり回復する。これこそ「ダム活」だ。どの楽章にもペーター•ダムのカデンツァがついているのがうれしい。
【おまけ】 ペーター•ダムとビブラート
「なぜペーター•ダムはホルン奏者なのにビブラートをかけるのか。」とよく聞かれる。とても深いテーマだ。答えは本人にしかわからないが、僕は今回紹介したハイドンのホルン協奏曲の二楽章冒頭に手がかりがあるように思う。
「この最初の一音を美しく歌うためにもっとも適しているから」、という、ただそれだけの理由ではないだろうか。逆に旧西側世界でホルン奏者がビブラートを敬遠するようになった理由を考えるのも面白いかもしれない。
今回紹介した第二楽章出だしと、昔日本でCM放送されたキャスリーン・バトルの「オンブラマイフ」の出だしにはどこか共通したものがあるので、是非比べてほしい。ペーター•ダムもバトルも、美しい歌声で演奏する名歌手であるのがよくわかる。