ある日ご主人様がパソコンの前でポロポロ涙を流していた。肩越しにのぞきこむと、なんとペーター•ダム氏ご本人から本ブログへの激励のメッセージが届き、ご主人様は感激して泣いてしまったのだ。
「違います!書いているのは僕なんです!」と言いたかったが、ここはだまってご主人様に花を持たせてあげよう。ダム氏は、「空太くんとだむ美さんによろしく」とまで書いてくださり、シーズン2を楽しみにされていた。「普通の柴犬に戻る」発言は一旦撤回して、シーズン2を始める。
シーズン2もシーズン1同様、順番はランキングではない。今回はリヒャルト・ワーグナー作曲、「ニュルンベルグのマイスタージンガー」から第一幕と第三幕の二つの前奏曲を紹介する。
ダムさんのためにも、はりきって紹介しますよ!
空太くん、おかえりなさい!
演奏者と録音について
指揮者: ヘルベルト・フォン・カラヤン Herbert von Karajan
オーケストラ: ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 Staatskapelle Dresden
合唱:ドレスデン国立歌劇場合唱団、ライプツィヒ放送合唱団 Chor der Staatsoper Dresden/ Chor des Leipziger Rundfunks
歌手: Singer
ハンスザックスHans Sachs:テオ・アダム Theo Adam
ポーグナー Veit Pogner : カール・リッダーブッシュ Karl Ridderbusch
ベックメッサー Sixtus Beckmesser: ジェレイント・エヴァンス Geraint Evans
ヴァルターWalther v. Stolzing : ルネ・コロ Rene Kollo
ダヴィットDavid : ペーター・シュライヤー Peter Schreier
エヴァEva: ヘレン・ドナート Helen Donath
マグダレーネ Magdalena: ルート・ヘッセ Ruth Hesse
録音技師:クラウス・シュトリューベン Claus Strüben
録音日時:1970年11月24日-30日、12月1日- 4日(ペーター•ダム 33歳)
録音場所:ドレスデン ルカ教会
「マイスタージンガー」の当時としては世界初のステレオセッション録音。時代は東西ドイツが壁で分断されていた冷戦下。指揮者は西側のスター指揮者カラヤン。彼が壁を超えて東ドイツにやってくる。
リチャード・オズボーン著「ヘルベルト・フォン・カラヤン」(白水社)下巻の中に、この録音のエピソードが詳しく書かれている。
それによると、、、
もともと録音日程は21日間だったのが、約2/3のわずか13日間で完成。
短期間で終了した理由は、シュターツカペレドレスデン(SKD)がこの曲を熟知していて、万全の準備が整っていたためだそうだ。SKDは作曲者ワーグナー自身が指揮した本家のオーケストラ。カラヤンが指示したり変更することが少なかったのだろう。ほとんどをワンテイクで録音し、よほどの問題がなければ再録音はしなかったそうだ。そのため、全体的に勢いのある演奏になっている。
冷戦時代に、西側と東側の音楽家が協力して完成させたこの録音は大きな話題となり、現在でも「マイスタージンガー史上最高の録音」と評価されている。
感激したカラヤンが、録音終了後に団員の前で行った感動的なスピーチが伝記に残されている。
(引用)
「以前、ベルリンのエージェントから、『ドレスデン国立歌劇場管弦楽団の前に立つまで待っていてください。彼らの演奏には黄金の輝きがあります』、と言われたことがあります。この町の大部分は破壊されましたが、あなた方こそドレスデンの伝統と文化の生きるあかしです」
カラヤンのこの演説に、ドレスデンシュターツカペレの多くのメンバーが涙を流したそうだ。
聞いただけで涙腺が崩壊します。。。
ドレスデンは広島、長崎と同じように戦争で廃墟になった街ですからね。。。
「ペーター•ダム的」聴きどころ
第一幕への前奏曲
有名な前奏曲。最初の曲なので、最初に録音したのかと思いきや、実は最終日の、しかも終了時間間際に一気に録音されたそうだ。13日間のさまざまな思い出を胸に、いつ再会できるかわからない西側のカラヤンとの別れを惜しむかのように、全身全霊で演奏するドレスデンシュターツカペレの演奏が熱い!激アツだ!
前半、「マイスタジンガーの芸術の動機」が最高潮に達する部分、カラヤンがペーター•ダムにたっぷりと歌わせるフォルテッシモが素晴らしい。ペーター•ダムファンに違いない録音技師のClaus Strübenが「ここは絶対ダムの音を拾うぞ!」と意気込んでいる様子もうかがえる。(笑)
第一幕への前奏曲であって、全録音のフィナーレなんですね!
繰り返し聴きたい名演です!
第三幕への前奏曲
華々しい第1幕への前奏曲と対照的な、うつうつとしたメロディーで始まる第3幕への前奏曲。ハンス・ザックスが、「あーでもない、こーでもない」、と一人仕事場で迷妄している場面から始まる第三幕。
僕もいい歳の老犬なので、この場面にちょっと共感する。この楽劇では、若き騎士やエヴァ、徒弟たち、そして悪役ベックメッサーですら、どこまでも真っ直ぐだ。その中でただ一人だけ迷うハンス・ザックス。自分らしく生きるのがいいのか、そもそも「自分らしく生きる」とは何なのか。迷える中年オヤジの代表がハンス・ザックスではないだろうか。
そんな行き場のないオヤジの迷いを断ち切るかのように、ペーター•ダムが「目覚めよ、その日は近づいた!」を朗々と歌い上げる。暗闇に光を照らすようなペーター•ダムの「歌」に、カラヤンもうっとり目を閉じていたに違いない。
ペーター•ダムこそが最高の「マイスタージンガー」であることがわかる、名演奏!
人生に迷ったらペーター•ダムですね。
空太くんは犬生ね。 またダム味(み)を味わえてうれしいです!
引用:『ヘルベルト・フォン・カラヤン』リチャード・オズボーン著 木村博江訳 白水社
楽譜引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/ニュルンベルクのマイスタージンガーhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ニュルンベルクのマイスタージンガー