テレビを観ていたら、人間の高校生が日本各地のダムを600箇所も巡り、それを本人は「ダム活」と称していた。けしからん!「ダム活」とはペーター•ダムの名演を聴くこと以外にないではないか。「ダム崩壊」とか「ダム決壊」とか、どうして人間は大切な師の名前をそんな物騒なことに用いるのだろう。柴犬には全く理解できない。
それはさておき、前回のリヒャルト・シュトラウスの回でハッスルしすぎてしまったので、今回はシンプルに誰もが知っている名曲でペーター•ダムの名演を紹介する。
今回は学校でも鑑賞したであろう、シューベルトの交響曲「未完成」だ。ペーター•ダムが演奏すると一体どうなるのだろう。
前回はずいぶんマイナーな曲、『無口な女』でしたね。
こっちが無口になっちゃいますよね。でも「未完成」なら大丈夫かも。
楽曲について
シューベルトが1822年に作曲した作品。25歳くらいだろうか。現代でいえばうちのおぼっちゃまのような入社3年目の新人が作曲したから「未完成」なのか?いや、違う。
「未完成」とはいえ、これ以上何も付け加えられない美しい作品だ。
この曲はご主人が子供のころは「第8番」と呼ばれていたが、その後未完の作品がいくつか発見されて、今は「第7番」と呼ばれることも。今回の録音(1978年)では番号はつけられず、単に「交響曲 ロ短調 D.759」とされている。番号よりも「未完成」と呼んだ方が無難だ。
「第8番」というと歳がばれちゃいますね。
演奏者と録音について
指揮者:ヘルベルト・ブロムシュテット
オーケストラ:シュターツカペレ・ドレスデン
録音日時:1978年2月23日-24日 (ペーター•ダム 40歳)
録音場所:ドレスデン ルカ教会
ブロムシュテットは1927年生まれで、カイベルト、ケンペ、コンビチュニー、スウィトナー、ザンデルリンクの後を継いで1975年から10年間シュターツカペレ・ドレスデンの首席指揮者をつとめた。現在も「アラ百」でなお現役指揮者として活躍する生きるレジェンド。この録音は50代前半の作品。
ブロムシュテットとシュターツカペレはたくさんの録音を残しているよ。
ペーター•ダムとのモーツァルト「ホルン協奏曲集」も残してますね。
「ペーター•ダム的」聴きどころ
「シュターツカペレ・ドレスデンは響の理想を持ったオーケストラである」
これはレコードの解説に小石忠男氏が紹介しているブロムシュテットの言葉だ。
レジェンド指揮者は、「このオーケストラのフォルテは音の重さとまろやかさ、あたたかさを表現するフォルティッシモ。それは線でなく固体のように響く」と、絶賛している。僕にはこの言葉はそのままペーター•ダムへの賛辞のようにも聞こえてしまう。
聴きどころ:第2楽章
冒頭、ベースのピチカートに乗せたペーター•ダムの「ドレミ in E」がたまらなく美しい。「ダム味(み)」たっぷりに情感を込めて歌いながらもしつこくない。こんなふうにこの曲の冒頭3音を吹けるのは神様ペーター•ダムだけだろう。神様の曲を神様が吹いた瞬間がこの録音にしっかりと残されている。そしてコーダの「ソ ミ ド ソ(in E)」と降りてくる分散和音のソロ。この4音を聴くためだけに全集を買っても絶対に後悔しない。まだ全て聴いていないので、ご主人がいないタイミングを見計らって全曲ボリュームを上げて聴くのがとても楽しみ。
ペーター•ダムが吹くと「未完成」が「完成」しちゃいますね。苦笑
今回もたっぷり「ダム味(み)」を味わえました!