シーズン2 【第8回】ペーター•ダムの芸術 ウェーバー 歌劇「オベロン」序曲 

 


ご主人様には内緒でブログを書いているつもりが、しっかりバレていた。しかも、ご主人様が僕の代わりに第7回を執筆してくれた。お墨付きをいただいたので、もう何も恐れることはない。思う存分、「ペーター•ダム好き好き!」を咆哮しつづけよう。

ご主人様は、「僕が年初から悲しみにふせっている」、と書いていたが、本当はそうではない。ご主人様自身が、世界各地の戦争や元日に発生した能登半島地震、そして子どもの頃に強い影響を受けたヘルマン・バウマンや小澤征爾逝去のニュースを見て、悲しみに沈んでいるのだ。「飼い犬は飼い主に似る」というのは、顔つきや仕草だけでなく、心持ちを共有してしまうからだろう。僕もしばらく何もできずにいた。

でも、落ち込んでいるご主人様を見ているのは飼い犬としては辛い。ここはご主人様が大好きなペーター•ダムの名演で元気づけてあげよう!

喜ばせてあげるため、ご主人様のライブラリーにはない録音をインターネットで検索して、「これだ!」というものすごい録音を見つけた。それが今回紹介するウェーバー作曲、歌劇「オベロン」序曲だ。

Kuuta
Kuuta
これでご主人様が元気がでること間違いなし!
だむ美 
だむ美
一体、どんな演奏なんでしょう?楽しみです!
 

演奏者と録音について

指揮者: ヘルベルト・ブロムシュテット Herbert Blomstedt

オーケストラ: シュターツカペレ・ドレスデン Staatskapelle Dresden

録音日時:1990年3月13日

録音場所: ジーゲン・ランドハレ  Siegenlandhalle, Siegen (ライブ録音)  


すでにブロムシュテットはこのブログに2回登場しているが、1975年から1985年までの10年間、シュターツカペレの首席指揮者を勤めた指揮者だ。でも、どうして冷戦時代の東ドイツのオーケストラに、西側のスウェーデン人指揮者が首席に?と不思議に思ったことはないだろうか。
前任のザンデルリンクは1967年に退任し、首席指揮者のポストはずっと空席だった。1969年に初めてブロムシュテットが客演をしたのをきっかけに、カペレとの相互信頼と絆ができあがり、着任以前から「非公式の首席」と呼ばれるほどになっていた。政府上層部への団員側の粘り強い説得工作で、ようやく「西側」の首席指揮者着任が実現した。 
そしてもう一つ。いつもは録音場所がドレスデンなのに、「ジーゲン Siegen」となっている。ジーゲンは旧「西ドイツ」の街だ。なぜだろう。それは「1990年」という特別な録音年と関係がある。
1989年11月9日に、いわゆる「ベルリンの壁」が崩壊し、1990年10月に東西ドイツは再統一される。この録音は壁崩壊から東ドイツが消滅するまでの時期の貴重な録音だ。
それまではさまざまな制限があったが、自由に西ドイツに行けるようになったカペレは、かつての首席指揮者であったフリッツ・ブッシュの生誕100周年記念コンサートをブッシュの生誕の地、ジーゲンで開催する。ブッシュはナチスを嫌い、ドイツを離れてストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督をしていた。スウェーデン人であり、自身もカペレの首席指揮者をつとめたブロムシュテットとの縁が深い。
また、第二次世界大戦で廃墟と化したドレスデンと、街の8割が破壊されたジーゲンという、悲惨な過去を共有する二つの街の縁もまた深い。 
そして、ウェーバー自身が指揮をしたドイツ最高のオーケストラが、本物のウェーバーを演奏するのだ。西ドイツの聴衆の期待と、冷戦時代壁に閉じ込められ、行動を制限されてきたカペレ団員の意気込みは、ともにピークに達していただろう。
名演奏ができあがる舞台は演奏前からすでに出来上がっていた。そして、ペーター•ダムが厳かに「オベロン」序曲の冒頭ソロを情感たっぷりに吹き始める。。。 
 
Kuuta
Kuuta

演奏を聴く前から泣いちゃいそうです。。

だむ美 
だむ美 

歴史的な名演奏にはそんな背景があったのですね!

「ペーター•ダム的」聴きどころ

「魔法の角笛」 

「オベロン」序曲は冒頭、ホルンソロから始まる。オペラを観たことはないのだが、これは妖精の王、オベロンが吹く「魔法の角笛」だそうだ。このソロはいろいろな吹き方がある。真っ直ぐな音で、控えめに吹くのが多いのではないだろうか。ペーター•ダムは違う。旋律を歌として、たっぷりと歌っている。初めて世界最古のオーケストラの、本当のホルンの音色を聴いた西ドイツの聴衆が息をのむ音が聞こえてきそうだ。序奏が終わり、アレグロになると、カペレがここまで熱情的な演奏をするのか、と驚愕させられる。 

ブロムシュテットとカペレの再会、分断された東西の人々の再会、いろいろな想いが重なり合い、演奏が終わった途端、聴衆は割れんばかりの拍手をペーター•ダムとカペレに送る音も録音されている。

政治的には西ドイツが東ドイツを吸収したのかもしれないが、音楽的にはペーター•ダムとドレスデン・シュターツカペレによってドイツは統一された、と考えるのは僕だけだろうか。。

 

Weber - Oberon Overture - Dresden / Blomstedt
Carl Maria von WeberOberon - OuvertüreStaatskapelle DresdenHerbert BlomstedtLive recording, Siegen, 13.III.1990

 

Kuuta
Kuuta

東西の人々の心が一つになりました!

だむ美 
だむ美
    
 


ペーター•ダムの魔法ですね! 

参考文献:エーバーハルト・シュタインドルフ著 『シュターツカペレ・ドレスデン 奏でられる楽団史』(識名 章喜訳、慶應義塾大学出版会) 
Reference: “Die Sächsische Staatskapelle Dresden” by Eberhard Steindorf