ほんの少し前まで、なぜかCDにも収録されず、配信もなかったため、「ペーター•ダムの幻の名演」と呼ばれた録音があった。それが今回ご紹介するシュトラウスの「月光の音楽」だ。
ご主人様はまだ入手が難しかった頃、国内で足を棒にして中古レコードを探しても見つからず、海外の怪しいオークションサイトで写真のレコードを落札した。ロシア人コレクターから購入したものの、2ヶ月近く届かずヒヤヒヤしたそうだ。東ドイツでプレスされ、おそらく当時のソビエト連邦(ソ連)の誰かが購入し、ソ連崩壊後のロシアで流通していたものが、今極東のご主人様の手元にある。時空を旅したレコードは、簡単に聴けるようになった今も味わいがある。
そんな貴重な録音も、今では多くの要望があったためか、ケンぺのリヒャルト・シュトラウス管弦楽全集に収録され、インターネットでも簡単に聴けるようになった。
演奏者と録音について
指揮者: ルドルフ・ケンぺ Rudolf Kempe
オーケストラ: ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 Staatskapelle Dresden
録音技師:Claus Strüben
録音日時:1970年6月 録音場所: ルカ教会、ドレスデン
この録音はEMIのものではなく、東独エテルナ独自の録音だったため、CD化されるときに収録されなかったものと思われる。前回に続きケンぺ、SKDの相思相愛コンビの録音。
「ペーター•ダム的」聴きどころ
音楽か言葉か、それとも。。。
歌劇「カプリッチョ」を全曲聴いた人はどのくらいいるだろうか。正直、このオペラは僕のように単純な柴犬にはちょっと理解が難しい。フランス貴族のサロンを舞台に、若くして未亡人となった伯爵夫人の気を引こうと、音楽家と詩人とがそれぞれ、「音楽まずありき」、「いや言葉が先にありき」と論争する。劇場支配人まで加わり「脚本が全てに勝る」と場を収めたかに見えたものの、肝心の伯爵夫人が「私は一体どちらを選べば良いの?」と最後まで答えを出さずに悩み続けるというストーリー。
この「月光の音楽」は、終幕で伯爵夫人が一人思い悩むシーンで演奏される。
夜のバルコニー。空には月の光。「音楽家か詩人か。。」そう思い悩む彼女に、天から降り注ぐかのようにホルンのソロが聞こえてくる。「やっぱり、私にはホルン吹きが一番なんだわ。」と気づき、夫人は舞台を駆け降りてオーケストラピットのペーター•ダムの腕を掴んで劇場を去る。。。というストーリーになって欲しいくらい、このソロは素晴らしい。
やはり、ペーター•ダムが一番!
「幻のダム味」、しっかり味わいました!