秋が深まってきた。秋のすぐ後ろには冬が、あまり長く待たせるなよ、と言わんばかりに控えている。この季節になると、ご主人様は少し寂しそうな顔をすることが多い。きっと2年ほど前のこの季節に、御母堂が鬼籍に入られたからだろう。
肉親を失うことは、人間にとってもっとも辛いことの一つのようだ。生まれてすぐにペットショップに売られた天涯孤独の僕ですら、僕を家に連れて帰り、「次男」と呼んで家族にしてくれたご主人様一家と別れるのはきっと寂しいと思う。
いつかそんな日が来ても、ご主人様が悲しみすぎませんように。。そんな願いを込めて、一枚のペーター•ダムの貴重な名演を紹介したい。マーラー作曲「亡き子をしのぶ歌」だ。
演奏者と録音について
指揮者: カール・ベーム Karl Böhm
メゾソプラノ: クリスタ・ルートヴィッヒ Christa Ludwig
ソロホルン:ペーター•ダム Peter Damm
オーケストラ: ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 Staatskapelle Dresden
録音技師:Josef Sladko
録音日時:1972年8月15日(ペーター•ダム 35歳)
録音場所: ザルツブルグ祝祭大劇場 (ザルツブルグ音楽祭でのライブ録音)
カール・ベームが78歳になる約2週間前のライブ録音。東西冷戦下ではあっても、ザルツブルグ音楽祭は東西演奏家が交流できる数少ない場であったようだ。最近はレコードになっていないライブ演奏の音源が次々とCD化されているのがうれしい。
聴いたことのない録音がきっとでてくるでしょう。
「ペーター•ダム的」聴きどころ
「亡き子をしのぶ歌」は全5曲。歌詞はフリードリッヒ・リュッケルトの詩によるもので、
子供を失った父親の目線で書かれている。第1曲目からクリスタ・ルードヴィッヒとペーター•ダムは切ないメロディーを交互に情感を込めて歌う。演奏者達は高い緊張感を保ちながら終曲” In diesem Wetter”へと向かう。
第5曲 ”In diesem Wetter” (こんなひどい嵐の日には)
外はひどい嵐。荒れ狂う旋律で、「こんな日に子供たちを外に送り出さない」、「子供たちが病気になってしまう」、「子供たちが亡くなってしまう」と叫びながら、「もうそんな心配をする必要はないのか。。」、と絶望的に自己完結する歌詞が続く。耐えられないような悲しい音楽が、グロッケンシュピールの一音によって終わりを告げられ、雨が上がる。
それまでと一転して穏やかなメロディーに変わり、子供たちが、すでに神の手で守られて安らかに過ごしていることに気がつく。メゾソプラノの熱唱が終わり、最後にホルンが穏やかなメロディーをリフレインする。実はここが最大の聴きどころだ。「これ以上感情を込められない」、と言わんばかりのペーター•ダムの「熱唱」が始まる。
あまりに素晴らしくて、直後の拍手の5割以上はペーター•ダムに行ってしまったのでは、と思うほどの熱演、かつ名演だ。最後まで歌い尽くしたLudwigさん、ごめんなさい!そのくらいインパクトのあるホルンソロが聴ける。
美味しいところをさらってしまいました。。
Lugwig Christaのソロも素晴らしいです!